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宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
中外日報社「宗教文化講座」

聖典クルアーンとムスリムたち(1/2ページ)

明治学院大国際学部教授 大川玲子氏

2022年2月7日 10時00分
おおかわ・れいこ氏=1971年、大阪府生まれ。東京大大学院博士課程修了。文学博士。専門はイスラーム思想、クルアーン解釈史。最近はクルアーンの宗教多元主義的な解釈とその実践に関心を持つ。著書に『クルアーン 神の言葉を誰が聞くのか』などがある。

コロナ禍のため、海外での調査出張ができない日々が続いている。筆者の専門はイスラーム思想で、特にムスリムによる聖典クルアーン(コーラン)の解釈を研究してきた。ムスリムたちのクルアーンとの関わりを多角的に知るためには、文献調査のみならず、現地での聞き取り調査も大切なのは言うまでもない。これまで中東や東南アジア、欧米のムスリム社会で現地調査を行ってきたが、ここのところ、研究対象は文字情報が中心となってしまっている。

このような中、ムスリム社会での現地調査を思い起こすとやはり脳内に流れるのが、アザーン(礼拝の呼びかけ)とクルアーン読誦の声である。ムスリムが多数を占める社会を訪れると、アザーンは街中で否応なく耳に入って来る。朝から晩まで。クルアーンもテレビやラジオから流れ出ているので、商店やタクシーの中で耳にすることになる。また電車やカフェでも、クルアーンを手に小声ではあるが読誦している人を見かけることは珍しいことではない。

ムスリムは聖典と距離が近く、日本社会での聖典との関わり方とは大きく異っている。ただ、全てのムスリムが厳格に関わっているわけではなく、地域や個人による差、さらに言えば時代による変化がある。このことについては拙著『リベラルなイスラーム 自分らしくある宗教講義』(慶応義塾大学出版会、2021年)で書かせていただいた。クルアーンを根拠としてテロ活動を正当化するムスリムもいれば、平和主義活動に従事するムスリムもいる。そしてその間には様々なタイプのムスリムがいて、自分の立ち位置に迷いながら過ごす者もいる。ムスリムたちも決して一枚岩ではなく、人間であるがゆえに多様性や迷い、試行錯誤の中で生きているのである。

アメリカの世論調査会社ピュー・リサーチ・センターは、世界中のムスリムたちを対象に興味深い調査を行っている。上掲の拙著でも紹介したが、「どの程度の頻度でクルアーンを読むのか」と「クルアーンを字句通りに読むべきか」という質問に対する答えを見てみたい(12年公表)。ムスリムたちがクルアーンを読む頻度は地域によって異なっている。毎日読む者は、中東アラビア語圏の国だとほぼ半分だが、南欧・東欧・中央アジアだと10%以下になっている。ここからもクルアーンとの接し方に文化・地域差があることが分かるが、それでも社会の中にずいぶん浸透しているという見方が日本と比較しての正直な感想ではないか。

この頻度についての質問は、内容をどう理解しているのかには直結していない。しかし「クルアーンを字句通りに読むべきか」という質問は、ムスリムの内容理解の実態に踏み込んでいる。この調査はサブサハラ(サハラ以南)のアフリカ諸国とアメリカのムスリムが対象になっている。サブサハラ・アフリカでは平均すると80%がクルアーンを字句通りに読むべきと回答している(ただし国によって54%から93%と差がある)。他方アメリカ在住のムスリムで字句通りに読むべきと考えているのは半分ほどであった。マイノリティとしてアメリカで暮らすムスリムたちの中には柔軟にクルアーンを理解する必要性を認識している者が多い、ということであろう。とはいえ、それでも半分以上のムスリムがクルアーンを字句通りに理解するべきと考えているということは、日本人の感覚からすると驚きかもしれない。

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