大事なのは関係性 被災地での支援活動で(10月1日付)
多数の犠牲者と甚大な被害をもたらした能登半島地震から1年10カ月、同地の豪雨水害からも1年余りだ。被災地に行くと、まだまだ住宅再建は進まず、道路などのハード面も復興などとは程遠いことがすぐ分かる。
その中で、現地の多くの宗教者たちが自らも被災しながら息長く多彩な支援活動を継続しているが、その現場からは、「被災者の“心の復興”がとても難しい」との声が多数聞こえる。
地元寺院住職が仮設住宅集会所で定期的に開く寄り合いのカフェでは、農業の男性が、地震で水利施設が壊れた上に水害で田畑も水没し、「もう何もできない」と。
ほかにも「お金がなく、家の再建が見通せない」「解体で景色が一変し、これから街はどうなるのか」と不安が口をついて出る。世間話で盛り上がっても、「苦しさを笑いでごまかしている」と住職は心配する。
比較的被災が軽かった地区の宗教者グループは、遠方で被害が激甚だった地域に支援物資を届けに行った際、家も仕事も全てを失った住民から「あの地区の人とは話したくない」と言われた。リーダーは「失望が深く、心の傷が尋常ではない」と落ち込んだという。
元々、近所付き合いが密な地方で、地域コミュニティーの崩壊も大きな要因だ。仮設住宅に入居しても周りは住んでいた地区が異なる知らない人ばかりで、孤立感に陥り、自治会もできない。以前からの過疎・高齢化の上に住民が転出して集落が消滅寸前など、東日本大震災やほかの災害で問題になったことが繰り返されている。
それに対して宗教者たちは、悩みを受け止める傾聴活動や集まって気晴らしのレクリエーションをする催しなど様々な工夫をしているが、そこで大事になるのが関係性、つながりだ。
当初、支援のニーズを尋ねても、顔見知りでないと「私は大丈夫」と本音を明かさない。だが寄り添い活動が粘り強く長期に繰り返されると互いに名前で呼び合い、自然に相談事が口に出ることもある。
“ボランティア元年”とされた阪神・淡路大震災の際、「心のケア」専門家の医師が「支援者はまず、その姿を見せ続けること。被災者が自分たちは見放されてはいないと感じられるように」と指摘した。
全国の社会福祉協議会やNPOメンバーなどの研修講師を務める災害支援専門家は「関係性が大きなカギ。それは平時、普段から大事に築いておくべきもの」と訴え、被災地の宗教者たちはそれを肌身で実感しながら働いている。