11次元の世界
米国の理論物理学者エドワード・ウィッテンが1995年に提唱した「M理論」は、この世界の基本的な構成要素を1次元の弦と多次元の膜と捉える仮説で、宇宙誕生のメカニズムを解明し得る理論として有力視されている◆特筆すべきは、M理論を矛盾なく説明するには、この世界を10の空間次元と時間次元からなる11次元と捉える必要がある点だ。我々はふつう、空間3次元と時間1次元の世界を認識しているが、M理論では残りの七つの次元が非常に小さく折り畳まれた状態で存在していると考える◆この理論をもとに、11次元の時空構造「母宇宙」から三つの空間次元だけが大きく膨張し、現象的宇宙、因果的な現実世界が顕現したことを「宇宙の誕生」とする仮説も提唱されている◆究極的な根本存在から現象世界が発現するという思想は、インドの伝統的な哲学思想に共通するもので、大乗仏教や密教の多次元的宇宙観とも親和性が高いことは、すでに多くの識者が指摘している。しかし、より重要なのは、人間には認識できない世界が存在する可能性があるという事実そのものではないだろうか◆目に見えるもの、認識できるものだけが世界の全てではないということを意識することで、私たちは、今よりほんの少しだけ謙虚になることができるはずだ。そして、その謙虚さを忘れずに生きることこそが智慧の実践なのではないか。(奥西極)