減胎手術の実施で いのちの倫理どう確保する(9月17日付)
大阪大病院が、同時に複数の子を宿す多胎妊娠に対して、子宮内で胎児の数を減らす減胎手術を行っていることを先頃公表した。母体の安全のため、かつ臨床研究とはいえ、これが広がると障がいなどを理由とした“いのちの選別”につながる危惧もある。生殖医療での重大な生命倫理問題に、宗教界からも対応が必要だ。
近年、不妊治療のための排卵誘発剤などで双子以上の多胎妊娠のケースが増え、早産や妊婦の合併症などのリスクがある。同病院では昨年、倫理委員会の審査を経た上で、三つ子以上か重篤な病気を持つ20~40歳代の多胎の妊婦計10人に対して妊娠11~13週に手術を実施し、全てのケースで減胎を確認したという。
手法は妊婦の腹に刺した針から胎児の心臓に薬物を注入して死に至らしめるのだが、母体保護法に定める人工妊娠中絶には当たらないとされる。ただ、精神的負担もあり、施術後も妊婦には長期的心理サポートが必要だとしている。
減胎手術は1986年に長野県の諏訪マタニティークリニックが実施を初めて公表。産婦人科の学会などの「堕胎罪に当たる恐れがある」との批判にもかかわらず継続し、2020年12月までに1397例を重ねた。この間、学会は容認に転じ、厚生労働省の専門部会が母子の生命保護の観点から認められ得るとの見解を示しつつ、個別に慎重な判断を求めている。
課題はまず安全性だ。同大病院では「手術の確実性は高い」としつつ、減胎対象ではなかった胎児の10%近くが死亡した。16年には、五つ子を妊娠して大阪の病院で手術を受けた女性が医療ミスで1人も出産できなかったとして裁判に訴えた。
そして倫理面。同大病院では、減胎対象を母体や他の胎児への影響を考慮して決め、選別を目的とした遺伝子や性別の確認はしないとしている。だが新型出生前診断などで胎児の障がいの可能性は比較的簡単に分かる。同クリニック院長は「当初は数を減らして出産の危険を避けることが目的」だったとしながらも、実際には親の苦渋の決断によって障がいのある胎児が除かれる例がほとんどだという事実がある。
「安全に生まれてほしいのが望み。もし障がいがあっても生き生き人生を歩める社会であれば……」との院長の葛藤に、ある宗教者は「複数の選択から“最小の悪”を選ぶ緊急避難だが、それでも当事者は罪の意識で苦しむ。そういう不条理に直面した人の救いまで先回りした対応こそが宗教的生命倫理のあり方」と述べる。