スマホの使い方 ルール作りを共に考える(9月26日付)
幼少期における外部環境との接触は、未知との遭遇である。成長するに従い、その経験数が増えることで自己との関係性を理解し、他人や社会との関わり方や距離感を学び、自立した自己への自覚や自他の認識を深めることになる。現在問題になっているのは、年少の子どもたちがスマートフォン(スマホ)などの情報機器の使用を長時間にわたって繰り返すことに起因する偏った認識や学びへの影響についてである。
愛知県豊明市は8月、仕事や勉強以外でのスマホなどの使用は1日2時間以内を目安にするよう促す条例案を市議会に提出し、9月22日に賛成多数で可決された。スマホやタブレット、ゲーム機などの長時間の使用は、睡眠不足などの健康面だけでなく、家族との会話が短くなるなど家庭環境にも悪影響を与え、子どもの健全な生育を妨げる恐れがあるとして、1日2時間以内を目安に小学生以下は午後9時まで、中学生以上18歳未満を午後10時までとすることが盛り込まれている。条例に強制力や罰則はない。施行は10月1日。
市の発表後、電話やメールで意見が寄せられ、反対意見が多かったという。豊明市の小浮正典市長は「スマートフォンが便利で生活に欠かせないことは前提。あくまで2時間を目安とし、睡眠時間や家族との関係などを見つめ直すきっかけにしてほしい」と話しており、条例は、家庭でのルール作りが進むことを促すため一つの目安を示すことに目的があるとしている。全住民に「目安」を示す条例は全国初という。
子どものスマホ依存やインターネットの利用には様々な問題が指摘されている。文部科学省は2020年に「学校における携帯電話の取扱い等に関する有識者会議」を立ち上げ、ガイドラインを策定して学校や市町村教育委員会に指導の周知を求めてきた。一方、スマホは社会生活の上でも必須のツールとして普及定着しており、そもそも個人の日常生活の在り方に行政が介入するのは余計なお世話だという反発もある。
従来にはない社会状況が生まれた場合に、対応できるルールを作り、合意事項を確認することは避けられないステップと言えるだろう。豊明市の条例は、ルール作りへの呼びかけとして意味がある。だが問題なのは時間の長さだけではない。大事なのは日々成長を続ける子どもたちが全身で学べる体験の機会を増やすことではないだろうか。日常生活の在り方を子どもと大人が一緒になって考えるところに、新しい知恵が生まれることを期待したい。