歴史の修正
歴史修正主義の本質は歴史の政治利用であり、目的は政治体制の正当化と不都合な事実の隠蔽、都合の良い筋書きの提示にあるといわれる。過去の解釈を変えることで国民が一体となれる歴史物語を創造し、未来をコントロールしようとする◆修正が及ぶのは歴史の解釈にとどまらない。権力を握る者が「失われた歴史」を世に実現しようとする欲望にとらわれるのは、そうすることが歴史的な正義であり、その使命と力が自分に与えられていると考えるからだろう◆歴史は成し遂げられた結果として存在する。成し遂げられなかったことは存在しなかったものとして葬り去られ、新たな歴史が刻まれる。だが成し遂げられなかったことを本来成し遂げられるべき計画の失敗と考える者は、歴史として残らなかったものを「あるべき現実」として蘇生させるために力を注ぐ。そのエネルギーは、必然に従ってもたらされた結果を否定し、意図的に設計変更する力を行使するものとなる◆歴史を人為的に再構築あるいは塗り替えようとする行為は、歴史の軌道を計画的に造成し直す作業に他ならず、それは現在を生きる人々に予期せぬ理不尽な「悲劇」を強いる結果を招く◆ロシアによるウクライナ侵攻やイスラエルによるパレスチナへの攻撃には、そのような歴史の修正を果たそうとする権力者の無制限の意志が働いているように見える。(形山俊彦)