PR
購読試読
中外日報社ロゴ 中外日報社ロゴ
宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
新規購読紹介キャンペーン
PR
第21回涙骨賞募集 2024宗教文化講座

僧坊の酒宴 ― 精進と酔狂の室町人たち(1/2ページ)

明星大准教授 芳澤元氏

2022年2月14日 09時17分
よしざわ・はじめ氏=1982年生まれ。大阪大大学院文学研究科博士課程修了。専門は日本中世史・宗教文化史。現在、明星大人文学部准教授。博士(文学)。著書に『日本中世社会と禅林文芸』(吉川弘文館)、『足利将軍と中世仏教』(相国寺教化活動委員会)などがある。
僧坊酒宴に親しむ中世社会

2020年来、詩人ボッカチオの代表作『デカメロン(十日物語)』の話題をみかける。COVID―19にともなう緊急事態宣言、飲食店への営業時短申請などにより、テレワークや巣籠もりが優先されている現代と、ペストを避けて別荘で物語に耽る14世紀イタリアとを重ね合わせるのも無理もない。だが、同じ閉塞状況で作られた同書の内容は、笑いや激情に満ち、活気にあふれている。なかには修道士や聖職者と酒にまつわる逸話もある。

酒といえば、いまも醸造家や酒販店、消費者の心配事は、すぐに尽きそうもない。このような、政権や社会を巻き込んだ禁酒令は、歴史上たびたび登場した。明治時代に西本願寺の学徒が結成した反省会による禁酒運動、19世紀アメリカで広がったアルコール禁止キャンペーン。だが、どれもうまくいったためしはない。

どの話も、酒という文明の果実に対する人類の執着を裏打ちするが、日本では室町時代以降、醸造技術が革新されたといわれ、その中心は寺院だった。やがて、料理の世界に精進という概念が持ち込まれ、魚鳥食に対して独自の和食文化の実を結ぶ。例年なら新年会から歓送迎会のシーズン、このなまぐさい話を少しばかり見直してみよう。

エリート僧侶の自費祝賀会

喫茶文化に比べれば、中世寺社の飲酒や宴には、さほど光が当たることがなく、意外に思われることもある。だが、室町時代の記録をめくっていれば、僧侶が参加する宴席の多さには容易に気づく。専門的な酒文化の研究や、農学の醸造・発酵科学の分野では、中世寺院の飲酒への関心は皆無ではない。

中世の寺院社会で開かれた宴には、いくつかの特質がみられるが、その多くは、仏神事などの儀礼に関わる宴が主立っている。たとえば、顕密仏教の寺社では、得度して修学を重ねた僧侶が、やがて重要な法会に出仕し、その役を終えると昇進することになる。昇進を祝って酒飯の宴を開いた。これを悦酒という。天正17(1589)年に作られた「興福寺住侶寺役宗神擁護和讃」によれば、酒飯代を負担するのは周囲ではなく、昇進内定者が3日にわたって奢る決まりだった。

『今昔物語集』には、藤原利仁に誘われて越前国(福井県)に来た官人が、現地で1カ月も丁重な歓待を受け、帰り際に大量の引出物を贈られた話がみえる。芥川龍之介『芋粥』の題でも知られる説話だが、荘園領主の使者が現地に赴任した際、酒食や牛馬の提供を受け、最初の3日間に受ける接待を「三日厨」といった。同じことは、室町時代に東寺領の備中国(岡山県)新見荘に派遣された地頭代が、百姓らに歓待された例にみえる(『東寺百合文書』)。3日の悦酒も、こうした習慣を踏襲したものだろう。つまり、仏事や儀礼、検注にともなう饗応は、世俗社会の習わしに連動したものだったといえる。

会議をサボった罰で酒代をおごる

こうして結束を重んじる寺院社会では、集団の意志を決定する集会・評定が重視されたが、主に顕密仏教の寺院では、評定や儀礼を無断欠勤した者に、科酒の負担を求めた。応安元(1368)年の東大寺では、寺僧は毎月3回の集会に出席するべきなのに、勝手に休むこと3度におよべば、5人分の酒代を払う罰があった(『東大寺文書』)。河内金剛寺でも、定例の勤行を怠けると、清酒1瓶と濁酒2瓶を負担する決まりだった(『金剛寺文書』)。

このような、罰則としての科酒規則が評定で公然と決定されるのは、顕密寺院にみられる傾向で、禅院・律院・真宗寺院には確認できない。

宗教法人法をどう理解するか 田近肇氏7月22日

2022年7月の安倍元首相の殺害事件の後、旧統一教会の問題に関連して、違法な行為をしている宗教法人に対して所轄庁は積極的に権限を行使すべきだとか、さらには宗教法人法を改正…

災害時・地域防災での寺院の役割 ―大阪・願生寺の取り組みからの示唆 北村敏泰氏7月8日

要医療的ケア者向け一時避難所など地域防災に寺院を活用する取り組みを継続している大阪市住吉区の浄土宗願生寺(大河内大博住職)で先頃、大規模地震を想定した避難所設営の図上演習…

公的領域における宗教 ― 他界的価値と社会的合法性 津城匡徹(寛文)氏6月27日

「合法性」という規範 今年5月31日付で、単著『宗教と合法性――社会的なものから他界的なものまで』を刊行した。同書は、宗教がらみの非合法な行為を主対象としたものではないが…

漂流ポスト寺で継承 故人への思い受け止め(7月24日付)

社説7月26日

孤立出産女性への支え まず事情を聴くことから(7月19日付)

社説7月24日

SNSがもたらす錯覚 信頼する情報の見分け方(7月17日付)

社説7月19日
このエントリーをはてなブックマークに追加