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AI倫理原則の最新潮流(1/2ページ)

帝京大文学部教授 濱田陽氏

2022年12月16日 11時12分
はまだ・よう氏=1968年生まれ。京都大学人間・環境学博士。比較宗教文化、日本文化、文明論から人文学の可能性を切り拓いている。京都大法学部卒、京都大大学院人間・環境学研究科文化・地域環境学専攻。著書に『共存の哲学』『日本十二支考』『生なる死』『生なるコモンズ』ほか、論文多数。

AI倫理は人工知能に関する倫理をいう。2021年時点で、各国政府、グローバル企業、国際機関等が定め、公表している具体的な原則、勧告、法案は170以上あり、以降も新たなものが登場し続けている。基本的に、これらは人間に制御可能なAIを前提としている。制御可能であることが、現行のAI倫理が成り立つための不可欠な条件となっている。人間には制御不可能となる汎用AIについても、それが登場しない段階から考えておくべきだが、現行の原則、勧告、法案とはレベルを異にする難問であり、ここでは制御可能AIの倫理を考えたい。そこから制御不可能AIについての示唆が得られる面もあるだろう。

広義の自然に関わる倫理が環境倫理、生命に関わる倫理が生命倫理とすれば、AI倫理は人工物に関わる倫理である。環境倫理、生命倫理がグローバルに議論されるのと同様、AIも、その圧倒的な影響力と潜在力のため国際的課題となった。環境倫理、生命倫理が人間活動のあらゆる分野に重要な意味をもつのと同様、AI倫理も普遍的な重要性を帯びるにいたったといっていい。

宗教は、人知を超えるものの存在を前提とし、人間の幸福や過ちに大きな関心をもつ。現行のAIは、画像認識や自然言語処理などの特化された課題については、人知を超える能力を発揮し、そのパフォーマンスは、人間生活に急速に浸透している。人知を超える超越性の領域を拡大し、人間の幸福と過ちに直結する。この意味で、AIは宗教と競合性を有しており、人間に制御可能なAIでは宗教を代替できる可能性は低いだろうが、「AIは神となりうるか」などの問いによって、そのことが暗黙のうちに意識されてもいる。また、人知を超える問題の解決に貢献するという意味で、宗教とAIは協力し合えるという考えも成り立つ。さらには、AIが大きな災厄をもたらす危険性があるときには、宗教は、AIに歯止めをかけるための、世俗にとどまらない次元からの反対表明をなすことも期待されるだろう。

AIは宗教にとって、競合、協力、歯止めの観点から関心を向けざるをえない対象である。AIと人の関係性を問うAI倫理の動向を追うことは、宗教にとって、ますます根幹的な関心事となっていくだろう。

日本では2016年に発足した総務省のAIネットワーク社会推進会議が、AI倫理原則をめぐる議論や方向性において中心的役割を担ってきた。その推進会議が22年7月に公表した報告書は、19年8月以降に公表された17の国・地域及び2つの国際機関(米国・カナダ・英国・イタリア・オランダ・スウェーデン・デンマーク・ドイツ・ノルウェー・フィンランド・フランス・インド・韓国・シンガポール・中国・オーストラリア・EU・UNESCO・WHO)の40種のAI倫理原則・指針等を調査し、取りあげられた価値を分析している。AIの準備指数・出版物数・特許出願数・研究者数のいずれかが10位以内の国を挙げた結果、ロシアやイスラムを主要宗教とする国は含まれていない。

これを見れば、制限可能なAIについての現行の倫理原則・指針等が、どのようなものであるかがつかみやすい。掲載頻度が高い価値の順に整理すれば、①透明性・説明可能性(35)、②公平性(31)、③人間の尊厳(25)、④アカウンタビリティ(25)、⑤プライバシー(20)、⑥安全性(19)、⑦モニタリング・監査(16)、⑧セキュリティ(14)、⑨適正な利用(13)、⑩多様性・包摂(13)、⑪責任(13)、⑫人間の判断の介在・制御可能性(12)、⑬堅牢性(12)、⑭持続可能な社会(11)、⑮追跡可能性(11)、⑯適正な学習(データの質)(9)、⑰国際協力(6)、⑱教育・リテラシー(6)、⑲人間中心(3)、⑳ガバナンス(3)、㉑その他(コスト・効果測定)(2)、㉒AI間の連携(1)となる。

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