構築された仏教思想 明恵 真言密教から見る清僧の真実…粕谷隆宣著
明恵(1173~1232)は一般に「華厳宗中興の祖」として知られ、主著『摧邪輪』で専修念仏の教えを痛烈に批判したことでも有名だ。本書は、そうした旧仏教の立場から新しい動きに対峙した伝統擁護者というイメージにあえて待ったをかけ「真言宗の僧侶としての明恵」という新たな視点から、壮大な思想体系を築き上げた明恵という人間の全体像を描き出そうとしている。
著者は「明恵の思想と実践の根幹には、常に真言密教が存在していた」と主張する。その生涯と真言宗との結び付きを示すものとして、明恵の伝記資料などを整理しつつ、これまでほとんど着目されてこなかった東寺観智院所蔵の『明恵上人伝記』を分析。神護寺や仁和寺をはじめとする真言宗寺院のネットワークや摂関家からの後援を受けて展開された明恵の宗教活動は、当時の社会や仏教界に大きな影響力があり、山中に閉じた孤高のものではなかったと論じられている。また明恵の「加持」概念についても再評価を加え、単なる儀礼としてではなく、現実世界に仏の力を具体的に顕現させるための極めて実践的な思想であったことを提示。密教の秘法を手に、一人でも多くの悩み苦しむ人々を救おうとする明恵の菩薩行の在り方など、これまで見過ごされてきた側面にも光を当てる一冊。
定価1760円、佼成出版社(電話03・5385・2323)刊。






