現状認識が重要 変わる国の安全保障政策(6月12日付)
来年終戦80年を迎える日本の現状を考える上で、政府が昨年12月に「防衛装備移転三原則」の一部改正を閣議決定した意味は重要だ。改正は2022年12月に策定された「国家安全保障戦略」を踏まえてのもので、我が国を取り巻く安全保障環境の変化に適合するため、時代の要請に従って安全保障政策が見直されるのは自然の流れだと肯定的に受け止められている一方、外国企業から技術導入して国内で防衛装備を製造する「ライセンス生産」品をライセンス元の国に輸出できることについて、制限付きとはいえ武器輸出を可能にする方針転換への疑問や、国会で議論し国民的な合意を得るプロセスを経ずに閣議決定されたことへの批判もある。
防衛装備の移転は、佐藤内閣が共産圏諸国や紛争当事国への武器輸出を認めない「武器輸出三原則」を打ち出し、三木内閣が、その対象でない地域にも武器輸出を慎むとした結果、実質的には全ての地域に対して輸出を認めないことになった。このため政府は、個別の必要性には例外措置として認める決定を重ねてきた。
この原則を転換したのは安倍内閣で、「我が国を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増している」ことや「我が国が複雑かつ重大な国家安全保障上の課題に直面している」ことを理由に「より積極的な対応が不可欠」として従来の政府方針を包括的に検討し、14年4月に「防衛装備移転三原則」と「運用指針」を国家安全保障会議および閣議で決定した。
今回の改正では「防衛装備の海外への移転は、特にインド太平洋地域における平和と安定のために、力による一方的な現状変更を抑止して、我が国にとって望ましい安全保障環境の創出や、国際法に違反する侵略や武力の行使又は武力による威嚇を受けている国への支援等のための重要な政策的な手段となる」と説明し「官民一体となって防衛装備の海外移転を進める」と明記している。
岸田総理は、国際秩序を守っていくための貢献であり、平和国家としての歩みを堅持することに変わりはないとし、また、防衛装備移転の可否を閣議決定するなどの限定要件が歯止めの効果を持つとしている。しかし「防衛装備」とは武器および武器技術であり「武器」とは軍隊が使用し直接戦闘の用に供されるもの。また現在の安全保障戦略が「戦後レジームからの脱却」というスローガンを掲げて新たな国家像を描こうとした安倍内閣のもとで策定され、その流れの中にある意味を十分認識しておく必要がある。