PR
購読試読
中外日報社ロゴ 中外日報社ロゴ
宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
2025宗教文化講座
PR
2025宗教文化講座 第22回「涙骨賞」を募集

旧統一教会巡る不思議な「沈黙」 関係者の生々しい証言も

京都府立大教授 川瀬貴也氏

時事評論2024年10月16日 09時13分

早いもので、安倍晋三元首相が遊説中に殺害されてから、2年以上の歳月が流れた。日本近現代史において、暗殺された首相経験者の数は7人に上るそうだが、戦後では安倍氏ただ一人である。今のところ、この事件の被告の裁判も何故か始まる気配がなく、不思議な「沈黙」でもって、この事件は風化しつつあるような気さえしている。

そのような雰囲気の中、先日私は出版されたばかりの、樋田毅『旧統一教会 大江益夫・元広報部長懺悔録』(光文社新書)という書を一気読みした。タイトル通り、これは元旧統一教会幹部であった大江氏という人物が、自らの来歴とともに(ちなみに彼は2023年に末期の大腸がんを手術して、その後この書の元になる取材を受けた)、これまで旧統一教会が「何をしてきたのか」というのをさまざまな側面から告白した書である。

一読して、これほど赤裸々に語るとは、と驚いた。例えば彼の口からは「教会のためなら、世俗の(サタン側の)法律や倫理は無視しても良いという考えがあった」「自分が入会した頃には存在しなかった、人を騙し続けた霊感商法はよくなかった。霊感商法に従事させられた熱心な信者も被害者」「私の広報部長時代は、霊感商法について、経済活動は宗教団体とは無関係、と言い続ける悲惨な日々だった」「生活基盤を脅かすような献金は控えるべきと教団内部で訴えたが無視された」「自民党は今、統一教会との関係を総て断ち切り、無関係であるというような顔をしているが、あれだけ組織をあげて協力したのに、本当にひどい仕打ちだ」「赤報隊事件(1987年に朝日新聞阪神支局が襲撃され、記者が殺傷された事件)は、もしかしたら、うちの教団の末端にいた連中の暴走だったかも」など、次々と生々しい証言が飛び出るのだ。まさに「懺悔録」である。

古諺に「人の将に死なんとする、其の言や善し(『論語』泰伯)」とあるが、私の読後感がまさにこれだった。そしてつい、こんな人が多数派だったらあの教団はどうなっていただろうか、とないものねだりしてしまう。なお、この本の出版により、大江氏は教団を自ら脱会したのだそうだ。

さて、先日の朝日新聞の「スクープ」として「安倍氏、旧統一教会会長と面談か」と銘打った記事が一面に掲載された(9月17日朝刊)。これまでも、安倍氏が旧統一教会と深い関係があったこと(教団作成のビデオに出演し、それが暗殺の一因となったとされる)、しかもその「縁」は祖父の岸信介まで遡ることは指摘されていたが、改めて「答え合わせ」をするような記事であった。これらの一連の報道に対して、現在のところ自民党は「既に公表した以上のことはない」「党内の事務手続きなどについては公表していない」と、これまた奇妙な「沈黙(黙殺)」の態度を崩していないように見受けられる。

上記の大江氏の「懺悔録」と照らし合わせたとき、個人的には内心忸怩たるものを感じる。「死人に口なし」は生者の法、では「あの世」や「魂」を信じる宗教側から見てあの事件は果たして終わったのか、とつい皮肉な感想を持ってしまう。

酷暑の中の津波避難の教訓 約40カ所の宗教施設が機能 稲場圭信氏8月20日

7月30日、カムチャツカ半島付近を震源とする大規模地震が発生し、日本列島太平洋側を中心に津波警報および注意報が発令された。広範な地域で津波が観測され、岩手県久慈港では最大…

国家関係と学術交流 次世代に希望託す日韓フォーラム 弓山達也氏7月30日

6月28、29日に韓国・釜山の釜慶大学で日韓次世代学術フォーラムが開催され、筆者は15年ぶりに引率教員として参加した。日韓それぞれ10~20の大学から約50人の発表者が選…

国際宗教社会学会に参加して 新たな権威主義の台頭の意味 伊達聖伸氏7月16日

6月30日から7月4日まで開かれた第38回国際宗教社会学会に参加してきた。会場となったのはリトアニア第2の都市カウナスにあるヴータウタス・マグヌス大学で、東欧の旧共産圏と…

戦後80年の視座 宗教団体法下の国家と宗教(8月22日付)

社説8月27日

被爆者が語る実相 悲惨であっても直視を(8月20日付)

社説8月22日

保守分裂下の戦後80年 社会の「分断」傾向を憂慮(8月8日付)

社説8月20日
このエントリーをはてなブックマークに追加