未来を失う子どもたち 地球を壊す大人の責任(7月3日付)
メッカ巡礼者が熱波で多数死亡するなど地球規模の猛暑が気候の危機を告げている。人類の生存が脅かされるのは遠い未来ではないという声さえ聞かれる中、思い起こすのは1992年にリオデジャネイロの地球サミット(国連環境開発会議)で当時12歳の少女セバン・スズキさんが行った「大人のみなさん、どうやって治すのか分からないもの(地球)を壊し続けるのはもうやめてください」と訴えたスピーチだ。世界の大人たちを5分間沈黙させたという伝説のスピーチだった。だが、大人たちは今も地球を壊し続けている。
スズキさんはカナダ在住の日系人で、友人らとつくった「子ども環境協会」代表としてサミットに臨んだ。スピーチは、大人たちへの厳しい言葉にあふれていた。
「私たち子どもが自分の未来を失うことは、あなたがた大人が選挙で負けたり、株で損したりするのとは次元の違う問題なのです」「世界中の飢えに苦しむ子どもたちの泣き叫ぶ声は、あなたがた大人の耳には届きません。行くところがなく、次々と絶滅していく数えきれないほどの生き物たちのことも同じです。だから(略)代わって私たちが話すのです」等々。そして、子どもを愛しているというのが本当なら「言葉ではなく行動で示してください」と結んだ。
曇りのない視点からの批判に、欲が渦巻く大人社会は大いにうろたえる。6年前、当時15歳のスウェーデンの少女グレタ・トゥンベリさんが「気候ストライキ」を始めた時も同様だった。
だが、少女たちの願いもむなしく世界で飢餓に苦しむ人は7億人以上ともいわれ、その多くは子どもだ。飢餓の原因は複雑だが、気候変動が影響していることは間違いない。国際自然保護連合は、人的要因で絶滅危機に陥った野生生物は4万4千種を超えたという。
たとえ無意識でも集団の行為が他者を傷つけたら、構成員は個々にその責任を分有し、解決に努める義務がある。ナチスの暴走を許したドイツ国民を例にとった「責任の社会的つながりモデル」という考え方(岩波現代文庫『正義への責任』)だが、気候危機もそのモデルにピッタリの問題のようだ。
スズキさんのスピーチは「同じ大家族の一員」なのに戦争を起こし、環境問題の深刻さにも、飢餓と飽食という不正義にも鈍感な大人たち一人一人の無責任さに憤り、子どもの未来のために行動を起こすよう求めた点にインパクトがあった。今は、その問い掛けを受け流し、ただ言葉で地球環境を語るだけで済む時代ではない。