声明理論の形成過程 平安・鎌倉期を中心に…澤田篤子著
「声明」という語は音声・言語に関わる学問領域を指す語だったが、平安末期に「梵唄」に代わる語となったという。歴史的には天台・真言の漢語・梵語の声明を前提に、伝統的音律論が中世初頭に成立した。一方、旋律論は実践と結び付きながら発展を遂げ、表白や講式など日本語の声明の旋律生成を支えた。鎌倉時代以降の浄土教系、法華宗系は天台声明の伝統的音律論の流れをくむが、禅宗は伝統的音律論を退けて呂律・五音を用いず能の謡や平家に近いものとなったという。
著者は、仏教書では最古の音楽的記述がある安然(841~?)の『悉曇蔵』に注目した。安然は近江の生まれで、最澄の血縁者とも伝わる。空海、円仁ら入唐僧が伝えた悉曇をまとめたほか、遍昭から両部大法を伝受し、伝法阿闍梨位を授与された。
第4章以降では、最古の声明理論書『声明用心集』を記した湛智(1163~?)に光を当てる。湛智は天台声明中興の祖・良忍の弟子筋にある人物。雅楽の理論を取り入れながら声明の改革を行い、伝統を尊重する古流と対立するも、湛智の新流が天台大原流声明として今日まで継承されているという。
後世に大きな影響を与えた天台の両書を中心に、真言諸流も含めて平安期から鎌倉期における声明理論の形成過程をまとめた。
定価1万1千円、法藏館(電話075・343・5656)刊。






