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いのちの電話⑤ 社会復帰訓練、決して諦めない

皆が働く「まちなかキッチン」はきれいな店だ 皆が働く「まちなかキッチン」はきれいな店だ

白浜の温泉街の中ほど、小さなビルの1階、ガラス張りの明るい店で十数人が仕出し弁当作りに忙しい。藤藪庸一牧師が自死念慮から立ち直った人たちの働く場として2011年に設けた「まちなかキッチン」。

昼になるとおいしそうな料理の匂いが漂う。スタッフは藤藪牧師も含めて常時20人弱、うち4人は配達係だ。稼働は午前10時から午後2時半まで。メニューは豊富で、専門家の指導によってフライや煮物、焼き魚、野菜炒めから様々なサラダなど日替わりで毎日十数種類もの料理を作り、注文に応じた弁当にする。手探りでスタートしたが味の良さが評判になり、今では日に250~270食、月間5千食近くを売り上げる。町内の事業所や旅館、観光施設などまとまった顧客がある。

実は、店の立ち上げにも自死念慮者だった中年の男性が関わった。元中華店の料理人だった男性は「一匹狼的な性格」だったが、共同生活に入って皆の食事の世話を引き受けた。「濃厚なマーボー豆腐は病みつきになる味でした」と牧師。その自信の腕を見込み、NPOの運営のためにキッチン設立を持ち掛けると熱心に応じた。だが手続き問題で開店が大幅に遅れる。

やっと店が動きだした時、男性は既に就職していた先を辞めてまで厨房に入ってくれた。職場には「キッチンが開くまで」と約束を取り付けていたという。藤藪牧師は「そんな就職なんて普通はあり得ない。私は本当に人に恵まれている。神の祝福です」と振り返る。NPO設立の際も中心になったのは三段壁で保護した人、元経理部長の男性だった。「神の助けはいつも人を通して与えられる。私は神の助けを届ける人になりたい」。助けた人々に助けられている牧師はそう念願する。

もちろん苦労も絶えない。いろんな人生を背負ってきたスタッフの間ではトラブルも起きる。ささいな事で口げんかし、完璧主義の人が他人の緩やかな仕事ぶりを気に入らず対立する。物事を最後まで責任を持ってすることができない性格のスタッフが周囲の信頼を失って孤立する。それは弁当作りの仕事にも影響し、調理や注文取りなど店の運営でも個人によってばらばらだったり、ずさんさが表面化したりすることも。品質の低下で客から苦情が来た時もある。年末年始に1週間休業すると、後に注文がかなり減った。

次々と試練が訪れ、一つ乗り越えるとまた次が立ちはだかる。藤藪牧師は「自分はとても事業には向いていない。料理にも経理にも営業にも自信はない」と落ち込む。しかしそんな時、「でもただ一つ、人を愛し、赦し、受け入れることだけは人並みにできているのではないか。神はこの仕事を見守っていてくださる」と思う。

スタッフの若い男性は、独り善がりで人の意見を聞かず、問題を他人のせいにして攻撃する態度で、どこでも失敗してきた。キッチンで仲間に「黙って仕事を」と言われ最初はストレスの塊だったが、それで周囲が見え、聞くことができるようになった。1年以上かかったが、そこから自分を見つめ直す道を見つけた。

「決して諦めない、それだけです」。牧師がそう言うように、自死念慮者の社会復帰訓練、自立支援という取り組みの目的が達せられつつある。経営も安定した。「神はこれから、このキッチンをどう用いようと考えておられるのか」。ビジョンは常に神から与えられると信じている。

(北村敏泰)

いのちの電話の看板横のボックスには10円硬貨がいつも置いてある

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