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瑩山禅師によって明らかになる曹洞宗の宗旨(1/2ページ)

曹洞宗善龍寺住職 竹内弘道氏

2024年1月10日 14時06分
たけうち・こうどう氏=岩手県一関市曹洞宗善龍寺住職。1952年、新潟県生まれ。慶応義塾大法学部卒。駒澤大大学院博士後期課程満期退学。専門は瑩山禅師研究、両祖論。曹洞宗総合研究センター主任研究員などを経歴。著書に共著『諸本対校 瑩山禅師『洞谷記』』(春秋社、2015年)、共著『現代語訳 瑩山禅師『洞谷記』』(春秋社、21年)など。
不可解な「宗旨」

宗門の最高学府である駒澤大学で禅の歴史・思想と宗学を学び始めて以来、ずっと抱き続けてきた違和感があった。それは、大学で学ぶ曹洞宗の「宗旨」と、道元禅師の教えとの間、さらには禅仏教が目指す本質との間に齟齬があるのではないかという疑問であった。

筆者がこれまで宗学で学んだ「宗旨」といわれるものを要約すると以下のようになろう。

「道元禅師の教えは只管打坐という言葉に集約される教えであり、それは、ただひたすら坐禅するなかに真実が現れるという教えである。つまり、坐禅そのものが身心脱落の当体ということになり、その坐禅は悟りを目的としない無所得・無所悟の坐禅でなくてはならず、不染汚の修証ともいわれる。また、宗門の坐禅は、坐禅修行のなかに証悟が自ずとそなわることから本証妙修の坐禅であるともいわれ、修行と悟りを分けないことから修証一等の坐禅とも表明される。こうして宗門では、坐禅は、通常の修行としての意味合いを超え、仏行としてとらえられることになり、さらにこの仏行は日常の行持としても実践され、そこに発心・修行・菩提・涅槃の行持道環が実現するとされる」

このような「宗旨」の結果、いきおい坐禅の姿が悟りと等置されて坐相が重視され、法要・儀式は仏行としての荘厳さが求められ、曹洞宗は綿密を宗風とする宗派として「威儀即仏法、作法是宗旨」という言葉が好んで用いられるのである。

以下、従来の「宗旨」に対する筆者の疑問点を列記していくこととする。そして、その答えは道元禅師の教えの中に存在していることも明らかにしていく。

疑問(一)ただ坐る姿が真実にかなった仏の姿といわれるが、只管打坐・身心脱落の坐禅は坐禅中の境界を否定するものなのか。答えは、修証を分けない無所得の坐禅であることが肝要であるが、道元禅師は坐禅中の諸仏の境界を否定してはいない。それは例えば『弁道話』に「諸仏如来、ともに妙法を単伝して、阿耨菩提を証するに、最上無為の妙術あり。これただ、ほとけ仏にさづけてよこしまなることなきは、すなはち自受用三昧その標準なり」とあり、また「もし人、一時なりといふとも、三業に仏印を標し、三昧に端坐するとき、遍法界みな仏印となり、尽虚空ことごとくさとりとなる」とあるごとくである。

疑問(二)宗門の修証一等の坐禅は仏行であり、坐禅に証が現れているとするならば、坐禅による体験的開悟を否定するのか。答えは、『学道用心集』に「人試みに意根を坐断せよ、十が八九は忽然として見道することを得ん。(原漢文)」とあるように、道元禅師は坐禅によって開悟に至ることを明言している。

疑問(三)無所得無所悟の坐禅を説く道元禅師は覚体験を否定しているのか。そもそも覚体験を否定したところに禅仏教が目指す宗教性は存在するのか。答えは、道元禅師は覚体験を否定してはおらず『正法眼蔵』「渓声山色」等の巻でたびたび香厳撃竹・霊雲桃花の話を引き合いに出し、悟りの境界を懇切に説いている。

「信の仏教」と「悟り無用論」

では、何故にこれまで悟りへの道すじを示すことなく、悟りを病的なまでに忌避する「宗旨」が主流になったのであろうか。その原因は近・現代に至って衛藤即応氏(1888~1958)によって体系化された「宗旨」に問題があったのではないかと思われる。衛藤氏は『宗祖としての道元禅師』を著して道元禅師の思想を分析し体系化を試みているが、氏が道元禅師の思想を「信の仏教」としてとらえたことはつとに知られており、その説は大きな影響力を宗内にもたらしたのである。

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