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中外日報社「宗教文化講座」

国際法の危機の時代 問われる「政教分離」の理念

東京大教授 伊達聖伸氏

時事評論2026年4月3日 09時47分

2月28日、イスラエルとアメリカがイランへの攻撃を開始した。そこには軍事や外交だけでなく、宗教的な論理もはたらいている。3月5日、トランプは大統領執務室に、長年交友のあるポーラ・ホワイトをはじめ約20人の福音派牧師を集めた。牧師たちは大統領に按手し大統領と米兵のために祈った。最初はフェイク画像かと疑ったが、国際法上きわめて疑義の大きな軍事行動を宗教的演出で権威づける場面にも見えた。

これもアメリカ型政教分離の一形態なのか。いずれにせよ、諸宗教の平等からほど遠く、信教の自由の名の下に政権が特定傾向の宗教を優遇していると言わざるをえない。政治・軍事・宗教の結託である。

国防長官ピート・ヘグセスは米国版十字軍を唱え、今回もキリスト教ナショナリズムの言説が前景化している。キリスト教シオニストは現在の中東の紛争を終末論的予言と関係づけている。一方、孤立主義を唱える極右には、親イスラエル外交をユダヤ人の陰謀と結びつける言説も見られる。

しかし、多くの宗教団体は戦争に反対している。穏健なプロテスタント諸教会やカトリック教会は、宗教による戦争正当化に異議を唱える。福音派も一枚岩ではなく、トランプ不支持の少数派もいる。副大統領ヴァンスはカトリックで、政権の安全保障政策と教会の平和倫理との緊張をどう引き受けるのか注目される。

政教関係再編の複雑な様相が窺えるが、一国に限定されない位相でも「政教分離」を再考する必要がありそうだ。今年1月のベネズエラ軍事作戦の際、トランプ大統領は「私には国際法は必要ない」と豪語した。国際社会も彼の一挙手一投足に注目せざるをえない。ホルムズ海峡封鎖の中での高市首相の訪米は日本のエネルギー安全保障に直結する局面だった。

山本龍彦氏は「SNSと『政教分離』、そして民主主義」(『Voice』4月号)で、SNSのビジネスモデルが席巻する現代をホッブズの時代と比較している。宗教戦争の終結過程で誕生した主権国家は、人間を操作する宗教の力を抑え込む形で政教分離を実現した。しかし今日、世俗と理性の領域が、新たな操作的権力=AIを手にしたプラットフォームによって再び脅かされている。ここで問題になっているのは、既存宗教の政治利用というより、宗教的なものと感情とアルゴリズムが結びつく新たな動員である。これにいち早く気づいた中国は国家がプラットフォームを抱え込み、続いてトランプのアメリカが国家とプラットフォームを融合させつつあると山本氏は指摘する。巨大テック企業も「政教分離」の原則を踏み破ろうとしている。

イスラエルとアメリカには、政治的・軍事的・宗教的な力を融合させた覇権は国際法に束縛されないという感覚さえにじむ。これに対し、歴史的に精神的権力を担ってきた教皇庁の国務長官パロリン枢機卿が「法の力が、力の法に置き換えられてしまった」と述べたことは重い。パロリンはイラン戦争の早期終結をアメリカとイスラエルに求める異例の直接発言も行っている。教皇庁の精神的権力が近代的な「政教分離」の理念を呼び覚ます声となるか、注目される。

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