四天王寺新縁起…一本崇之著、和宗総本山四天王寺監修

大阪の中心地にあって今なお多くの人が手を合わせる四天王寺は、聖徳太子の存命中に建てられた「日本仏法最初」の寺だ。長い歴史の中で自然災害、戦火など伽藍の焼失と復興を繰り返した苦難と、地域の人々の支えによって紡がれてきた歴史を伝える。
『日本書紀』には、同寺は推古天皇の御代、593年の創建との記述があるが考古学的には造営時期は検討事項だという。1934年の室戸台風で中門、五重塔が倒壊した際と、45年の大阪大空襲で伽藍を焼失した際に発掘調査を行った。伽藍配置や規模は創建当初のままだという。歴史のほか、舞楽面についても図版を示して紙幅を割いた。
「世界一の大梵鐘と大鐘楼―英霊堂に秘められた物語―」と題した項目では、約8㍍にもなる「頌徳鐘」がつられていた鐘楼堂が英霊堂になる過程を描く。明治時代に鋳造されるも「鳴らずの鐘」として完成から「撞き納め式」まで40年間撞かれることなく太平洋戦争で供出された数奇な運命を記す。大阪大空襲では落慶から5年で五重塔が炎上し、戦争が同寺から多くを奪い去ったことが分かる。
本書は地域情報紙や寺誌などへの掲載分を編集して収録した。著者は学生時代から12年間、文化財調査や展示に関わった。同寺の歴史への細やかなまなざしが感じられる。
定価2200円、東方出版(電話06・6779・9571)刊。