死者とともに生きる ――慰霊・鎮魂・供養――…一条真也著

著者は冠婚葬祭業を経営し、死別の悲嘆を癒やすグリーフケア活動にも熱心に取り組んでいる。その主張は「死者を忘れて生者の幸福など絶対にありえない」との一文によくあらわれている。その上で「死者との共生」「生者と死者との豊かな関係」の重要性を強調。葬儀をはじめとした故人を偲び、弔い、供養するという行為を考察していく。
本書は2部構成で、多くの死者が発生した災害や戦争、事件、事故などの事例を取り上げ、グリーフケアの大切さを啓発しつつ、死者との縁をないがしろにしがちな現代社会に警鐘を鳴らす第1部と、東西の文献や映画、戯曲、小説、童謡などを渉猟しながら葬儀の本質について考える第2部からなる。
「葬儀こそは最大のグリーフケア」との立場から、仏教における一連の死者儀礼のプロセスが「グリーフケアの文化装置」となってきたことを指摘。さらには悲嘆を通じてつながる「悲縁」の現代的意義を提起する。一方で、終戦間際の1945年に『先祖の話』を執筆した柳田國男の思想への深い共鳴も見られる。先祖崇拝、祖先祭祀を巡る論考をたどり「死者との共生」を前提とした日本の精神的伝統のあり方を称揚。戦後80年に当たり、柳田への捉え直しを通じて、有縁社会の再生を訴える。
定価1430円、産経新聞出版(電話03・3242・9930)刊。