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いのちの電話① 24時間体制「是非ご相談を」

白浜バプテスト基督教会では何人もが共同生活をする 白浜バプテスト基督教会では何人もが共同生活をする

小高い丘の住宅地にある教会の白い尖塔の十字架に明かりがともる頃、隣接する家に年齢層もまちまちな男女十数人が集まってきた。和歌山県白浜町で、自死を考える人を対象にした「いのちの電話」を運営する藤藪庸一牧師(47)の白浜バプテスト基督教会。藤藪牧師の働き掛けで死を何とか思いとどまった人たちが、牧師と働きながらこの家で共同生活をしている。夕刻には仕事を終えた若者や中高年が食堂に入り、一緒に夕食を作って食べる。幾つかの食卓に分かれ魚フライやサラダ、そぼろ煮を口に運びながら談笑する声が、温かい電灯の光とともに窓から漏れ出した。

関西有数の観光地・南紀白浜温泉で知られる同町には、雄大な断崖絶壁が海に突き出す名勝三段壁がある。紀伊水道から太平洋を望む絶景に全国から観光客が訪れるが、切り立った高さ60メートルの岩場の直下に波が打ち寄せる地形から投身して自死する人が後を絶たず、年間十数人に及ぶ時もあって「自殺の名所」と呼ばれる。

その入り口にあるNTTの公衆電話ボックスの傍らに「いのちの電話 重大な決断をするまえに一度是非ご相談ください。連絡をお待ちしています」との呼び掛けと「0739-43-8981」の番号を示した看板を設置し、24時間体制でこの電話に応答するのが藤藪牧師の取り組みだ。

この活動は元々、同教会前任の江見太郎牧師(故人)が1978年に三段壁入り口に電話相談を呼び掛ける看板を出して始めた。何人もが救われ、電電公社(当時)が現場近くに電話ボックスを設置した。子どもの頃から信徒として同教会に通っていた藤藪牧師は99年に26歳の若さで教会を引き継ぐに当たって活動も受け継いだ。「泣いているおばちゃんに江見先生が声を掛けたり、一緒に暮らす人たちが仕事をして懸命に生きようとする姿をしょっちゅう見て育ったので、当然のことでした」。「牧師=人を救うのが仕事」という思いに迷いはなかった。

看板には赤い十字架が描かれ、「わたしの目にはあなたは高価で尊い。わたしはあなたを愛している」など聖書の言葉が記されている。崖の上の遊歩道も含めて数カ所、電話ボックスは駐車場などにもあり、無一文の人のために中には10円硬貨を置いてある。「死に場所」を求め訪れた人が呼び掛けを見て電話してくると、藤藪牧師が何をおいてもまず駆け付ける。出張時などほかのスタッフが対応することもあるが基本的に牧師一人で対応しており、文字通り365日終日応答できるよう教会の外にいるときは自宅や事務所、スマートフォンに転送される。

助けた人の当面の生活支援、就労支援、自死防止啓発など活動の幅が広がると、教会では資金がほとんどなく牧師の給与でも足りないため、2005年に「白浜レスキューネットワーク」というNPO法人を設立して寄付なども募っている。役場と共同で観光地の清掃を兼ねたパトロールも行い、駅や道端で気になる人に声を掛けることも。活動を知って町外から連絡してくる人もいる。

こうして年間数十人を保護し、この21年間に自死念慮から救ったのは900人以上になる。時には失敗もありくじけそうになる苦難の連続だったが、江見牧師から引き継いだ際に心に浮かんだ「苦しむ人のそばにいること。その人を決して諦めないこと」という誓いが、今も変わらない姿勢につながる。

(北村敏泰)

いのちの電話の看板横のボックスには10円硬貨がいつも置いてある

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