日本密教人物事典 醍醐僧伝探訪 下巻…柴田賢龍著

上巻は2010年に刊行。平安後期の醍醐寺僧を中心として、法流上重要なつながりのある人物を含む84人の密教僧を収録した。中巻はその4年後の14年に、鎌倉時代初・中期を対象として発刊。三宝院流を集大成した遍智院僧正成賢(1162~1231)とその弟子たちを取り上げるなど、鎌倉時代中期から本格化する醍醐寺諸流の分派の流れにスポットを当てた。そして今年5月、最後となる下巻が出版され、15年をかけて上中下の3巻が完結した。
下巻は鎌倉時代後期から南北朝時代前期が対象。当時は摂関家など貴族階級の家門の分家に伴い、その子弟らの諸大寺への入寺が増えた時期で、醍醐寺を含め諸大寺の門首や座主職は天皇家とも縁の深い上級貴族が占めるようになり、醍醐寺では諸流の分派も相まって座主職を巡る争いにもつながっていった。その代表的な例として後醍醐天皇の寵僧だった文観上人(弘真/1278~1357)と、足利尊氏が帰依した賢俊僧正(1299~1357)の対立、抗争が紹介されている。
真言宗醍醐派僧侶で、本山寺務所勤務を経て長年研究活動に専念してきた著者にとって研究の集大成となる3冊だ。
定価2万2000円〈上・中巻〉、2万4200円〈下巻〉、国書刊行会(電話03・5970・7421)刊。