共通テスト「倫理」 社会的孤立を縁でつなぐ(10月18日付)
令和5年度共通テストの倫理本試験では「親ガチャ」に関する問題が評判になった。しかし、それ以外にも倫理では現代社会を読み解く重要な問題が含まれている。先般、大学入試センターがホームページ上に本試験と追試験の問題を公開したが、追試験の方にも興味深い問題がある。それは、孤独・孤立と縁についての出題だ。
孤独・孤立と言えば、これに対する支援対策は岸田政権の重点課題の一つとなっており、今年5月末に孤独・孤立対策推進法が成立した。この法律では、第1条で「日常生活若しくは社会生活において孤独を覚えることにより、又は社会から孤立していることにより心身に有害な影響を受けている状態」を「孤独・孤立の状態」としている以外、特段の定義はなされていない。
一方、令和5年度倫理の追試問題では、主に独居高齢者の事例が引き合いに出されて論じられるが、孤独と孤立は定義がそれぞれ異なるものとされる。孤独は自ら望んで社会から一歩引いた観点で物事を観想すること、孤立は自ら望まずに集団から取り残されることと、両者は区別されるのである。現代社会で防ぐべきは、孤独ではなく孤立の方である。いわゆる社会的孤立の問題がそれである。
しかも、同じ追試験問題中には、この問題を解決するヒントのような形で、縁についての出題もなされている。縁による出会いや別れ、また人の世の無常に言及した会話や、万物が無数の糸でつながり合う世界をイメージさせる「南方曼荼羅」の図が取り上げられている。ここでは縁という関わりに気付くことの大切さが示唆されている。我々は縁によって生かされ、自らもまた縁を支え、人と人とを縁で結び付けるべきだというのである。縁についての出題は、人々が社会的孤立に陥らないための思想的基盤を示しているようにも思われる。
このたび政府は孤独・孤立対策の強化のため、悩みを抱える人を支援する「つながりサポーター」を養成し、また支援策の成功事例のデータベース作りも始める。特に支援策データベースにおいては、自治体やNPO法人などの取り組みが紹介され、これを通じて関係者にノウハウを共有してもらうのが狙いだ。
宗教者、仏教者の中には、すでに縁づくりという視座から、子ども食堂や地域の見守り活動、またホームレス支援などの社会的実践を行っている人たちがいる。果たして、どれだけの宗教関連の団体や施設が掲載されるか、今後の宗教者の活動に期待したい。