際立つ命の軽さ 人道主義が崩れていく(12月8日付)
パレスチナ自治区ガザ地区の親たちは自分の子が殺害された時、見分けがつくように、子の足に名前を記していると外電(米国CNN)が報じていた。イスラエルの激しい爆撃で、我が子がいつ犠牲になるか分からないからという。爆撃のむごさは吹き飛ばされた住居群の写真や「散乱する遺体、重傷の子ども、泣き叫ぶ女性…」と記事の見出しだけで想像がつく。
ガザの死者は1万5千人を超えて増え続け、その4割以上は子どもという。負傷で四肢を切断された子どもが700~900人に上るという医師の証言も報道された。マスメディアが好む「報復の連鎖」などという常とう句では、紛争の実相は見えてこない。
武力紛争時でも人道主義を原則に、紛争当事者を規制する諸法規を国際人道法と呼ぶ。文民や医療関係を直接、攻撃対象にし、また文民を飢餓に追い込むことなどは許されない。文民や住宅など民用物に過度の被害を与える均衡性を欠いた攻撃も無差別攻撃の一つで禁止される。一口に、人々を無用の犠牲と苦痛にさらすことを厳に戒めるルール集といえようか。
イスラム組織ハマスの大量殺人と人質奪取は弁解の余地のない戦争犯罪だが、人質交渉を棚上げしたイスラエルの攻撃も「ジェノサイド」化しているといわれるほどためらいがない。自衛権行使の域をはるかに超えた戦争犯罪だ。
国際人道法のルーツは敵味方の区別なく人々を救護する国際赤十字運動とされ、その提唱者アンリ・デュナンは第1回ノーベル平和賞を受賞した。国際社会は赤十字の理念に沿い人道の原則を磨き上げ、先の大戦後に今の内容を固めた。だが、反ユダヤ主義ととられるのを恐れてか、米欧諸国はイスラエル支持に偏り、築き上げた人道主義を自ら破壊する深い自己矛盾に陥っている。国連のグテレス事務総長がパレスチナの状況を「人類の危機」と言った意味が、その文脈で考えればよく分かる。
ガザとヨルダン川西岸を56年間も占領支配下に置くイスラエルはガザの封鎖政策や西岸での分離壁建設、ユダヤ人入植地の増殖など数々の国際法違反を指摘されてきた。アムネスティ・インターナショナルなどはそれを「アパルトヘイト」とするが、現在、西岸でもユダヤ人入植者による土地強奪などの暴力は絶えることがない。
歴史をたどると欧州でのユダヤ人差別、イスラエル誕生、パレスチナ人排除は全て共生を拒む人の心から生じている。この「非寛容の連鎖」を断たなければ、人類は永久に弱肉強食を続けるしかない。