上がらない肩
左の肩が上がらない。どうやら何かの加減で首を痛めて神経が圧迫されているらしく、ここ一月ほど服薬しながら様子を見ている。どんなに必死で力を込めてもある一定の所から腕が持ち上がらない◆これまで意識せずとも動かせていたものが動かせないのは何かと不便だ。暑くて脱いでいた上着を羽織る、コーヒーのマグカップを口元で傾ける、携帯電話で長い間通話する、電車で下ろしていたリュックを背負い直す、風呂場で髪を洗ってタオルで乾かす――、ちょっとした日常の動作がスムーズに進まない◆この身体的な不調は一時的なものだと信じている。上着は左から先に袖を通す、洗髪時には腕を上げるのではなく頭を下げるなど、同じような症状に悩まされた先人の知恵も拝借しながら試行錯誤している◆そこで、今では当たり前となった便利な技術やインフラが急に使えなくなったらと想定してみた。例えば大手通販サイトが長期間ダウンするだけで人々は混乱に陥るだろう。画面の購入ボタンを押せば希望する本や商品がすぐに届くことに我々は慣れ過ぎてしまった◆そういえば最近、休日に本屋を何軒もはしごして過ごすことがなくなっている。思い起こせば、そこには得難い体験や出会いがあった。不便さの中にも気付きや豊かさがある。上がらない左の肩を無理やり回しながら、次の休日に思いをはせている。(佐藤慎太郎)