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いのちの電話② 一筋縄でいかず、何時間も説得

いのちの電話の看板を点検する藤藪牧師 いのちの電話の看板を点検する藤藪牧師

「死のうと思います……」。こんな電話が和歌山県白浜町の名勝三段壁から「いのちの電話」にかかってくるのは夕暮れ以降が多い。藤藪庸一牧師が転送先の赤いスマートフォンを取ると「助けてくれるんですか」と消え入るような声がすることもある。すぐに白浜バプテスト基督教会を飛び出し、いつもの白ワゴン車を飛ばすと7~10分で電話ボックスのある所に着く。

「連絡してくれてありがとうございます」と声掛けするが、あえて車から降りず助手席のドアを開け放して「お話聞かせてもらえませんか」と招くことにしている。だが一筋縄でいくことはない。寒風の中、車の前で何時間も説得を続けることもよくある。

何とか車に乗ってくれたら速やかに発車する。断崖の荒海を望むその場から離れることで、その人はぎりぎりの死の恐怖から取りあえずは逃れられるのだ。だがその後も、安心して事情を話す人もいれば、無言の人、自らに向いていた怒りを牧師にぶつけ食ってかかる人も多い。大丈夫だと思えば教会へ連れていくが、うそをついているのが明白だったり興奮が収まらなかったりするときは、町内の周回道路を何周もドライブし、落ち着いてから「うちへ来ませんか」と持ち掛ける。そのようにして教会に来た人には、共同生活で当面の暮らしを支え、その人の状況を詳しく聞き取って再起の道を一緒に考えるのだ。

藤藪牧師には活動を始めた当初の体験が忘れられない。4月のある夕方5時すぎに電話してきた男性、小山さん(仮名)は当時48歳。死を決意したものの恐怖で飲めない酒をあおり、ふらふら状態で三段壁に着いた。だが説得にはなかなか応じない。仕方なくその場で事情を聞くが、「お前みたいな若いやつに分かってたまるか!」と怒鳴った。「その気持ちは今でも分かります」と牧師。「うちでゆっくりしましょう」「嫌だ」の押し問答で夜が明け、翌朝8時に「観光客が来るので」とようやく車に乗った。

小山さんは建設作業の仕事をしていたが1998年にバブル経済崩壊で会社が倒産し、同じ頃に妻が乳がんで亡くなった。残った1歳の娘を乳児院に預け働き続けたが、不況で仕事は月わずか10日にまで減る。家賃さえ払えなくなり電気やガスも止められた。娘の顔を見るのだけが生きがいだったが、18歳までは施設で育ててくれることを知り、「自分はお荷物でしかない」と思った。「安心して死ねる、妻の所へ行ける」と考えながらも迷い続けて白浜にやって来たのだった。

藤藪牧師の「やり直しましょう」の話を受け入れ、教会で暮らしながら就職活動を始める。牧師にも金がないので寸法の違う自分の背広を提供し、何とかホテルの清掃の仕事に就けた。「決め手は時間でした。その場から逃げず、諦めなかったから分かってくれた」と牧師は振り返る。だが、その後も平たんではない。

最初の給料を手に小山さんは姿をくらました。そして数カ月後、金がなくなって「死にたい」とまた三段壁に舞い戻った。再び説得に応じたが、選んだのは路上生活だった。「先生には恩義を感じるが、規則正しい生活は無理」と何度も牧師と言い合った小山さんは公園などをねぐらにし、浜で貝を採ったり様々な仕事も転々とする暮らしを10年ほど続けた。そして、ふらりと出掛けた四国八十八ケ所霊場巡りの遍路旅の途中、事故で亡くなったという知らせが教会に届いた。

(北村敏泰)

いのちの電話の看板横のボックスには10円硬貨がいつも置いてある

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