PR
購読試読
中外日報社ロゴ 中外日報社ロゴ
宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
2025宗教文化講座
PR
2025宗教文化講座

トランプ大統領再就任と二つのアメリカの宗教 息づく小さな者たちの力

東京大教授 伊達聖伸氏

時事評論2025年2月19日 09時14分

昨年末に刊行された髙山裕二『ロベスピエール』(新潮選書)を共同通信で書評する機会があった。評伝だが、ポピュリズム、権威主義、陰謀論など現代に通じる主題が明らかに意識されている。著者はこの「独裁者」が人民との透明な関係性を信じていた有徳の人だった点を強調しており、書評の末尾に私は、フランス革命期と現代の最大の違いは政治経済上の支配者に徳を期待できる信のリアリティの消滅と記した。

書きながら、だが待てよと思ったことが実はひとつある。トランプのアメリカでは、本人と「信者」のあいだではこのリアリティが生きているのではないかと。もとより客観的に見れば、多様性を否定し、他者の苦しみを理解も想像もできない人物を有徳とは到底言えない(一方、ロベスピエールには社会の弱者に味方した面がある)。それでも宗教的であることはできる。

1月20日の大統領就任式では、福音派のフランクリン・グラハムがトランプに神の加護を祈った。ユダヤ教のラビ、カトリックの神父など複数の宗教指導者が参加。無教派のプロテスタント牧師は、トランプが昨年の暗殺未遂事件で「ミリ単位の奇跡」で命を救われたことを神に感謝した。トランプ自身も「神のみが予期せぬ出来事が現実化するのを防いだ」と評した。

道徳的欠点を抱えるが偉大な政治宗教指導者であるとして、ダビデにトランプをなぞらえる向きもある。ダビデは王の権力を利用して部下の妻バテシバと交わり、その部下が殺されるように仕向けた。ただ、ダビデは預言者ナタンの言葉を聞いて、自分が罪を犯したことを認めた。トランプが自分の罪を認識して悔いることなどあるだろうか。

21日の超教派の礼拝では、米国聖公会主教のマリアン・バッディがLGBTQの人びとや移民たちに言及しながら、大統領に「神の名において、今恐怖におびえている国民に慈悲を与えてください」と要請した。トランプはこの説教を評価せず、逆に国民への謝罪を要求した。フランスの2人の女性神学者は、バッディ主教の勇気を讃えて支持する文章を『ル・モンド』に寄稿した。大統領就任式でイーロン・マスクがナチス式敬礼を思わせるポーズを取ったことも踏まえ、記事はナチスに対して抵抗したドイツの牧師ボンヘッファーの例を引いている。

バッディの抵抗は、大地を耕し、ビルを清掃し、食品工場で働き、皿洗いをし、病院で夜勤をする「小さな者たち」に注目する。青木真兵・光嶋裕介・白岩英樹『ぼくらの「アメリカ論」』(夕書房)は、《征服者/強者》のアメリカと《被征服者/弱者》のアメリカがあることを見据えつつ、前者の論理を押し返し、後者の倫理を掴み直すことを課題ととらえている。竹田ダニエル・三牧聖子『アメリカの未解決問題』(集英社新書)は、アメリカは多くの問題を抱えているが、それを見据えて乗り越えようとしている人たちも多いことに注意を向けている。一見宗教から話題が逸れていても、そこには拡張的で帝国主義的なアメリカの宗教性に対抗しうる、小さな者たちの力というアメリカのもう一つの宗教的伝統が息づいていると考えられる。

祭りのはたらきを再確認 高い次元から苦難の回復力 弓山達也氏3月5日

「久しぶりだね。また会えたね」「1年ぶり?」といった声が浪江の請戸漁港そばの苕野神社に響いた。昨年も本欄で書いたが、東日本大震災で社殿が流出し、氏子も離散状態の神社の祭礼…

僧侶が取り仕切る「儀礼」の力 変化の中で保持される宗教色 川瀬貴也氏2月5日

私事だが、先日義母が亡くなり、妻の故郷で葬儀を行った。人が生まれる時、死ぬ時は選べないので、その現場に携わる人々は24時間体制で、まさに「一期一会」の活動をしてくださって…

「信教の自由」の武器化 危惧される旧統一協会の攻勢 櫻井義秀氏1月22日

NHKの教育テレビ「こころの時代 シリーズ徹底討論9回目 宗教と政治『信教の自由を問う』」(12月29日放送、1月4日再)に出演した。冒頭に、慶応大学の駒村圭吾教授がアメ…

人類共有の価値観 国連でも示された道理感覚(3月12日付)

社説3月14日

地下鉄サリンから30年 社会変化踏まえ教訓生かす(3月7日付)

社説3月12日

融和の回復へ 「同じ人間」として生きる(3月5日付)

社説3月7日
このエントリーをはてなブックマークに追加