酷暑の中の津波避難の教訓 約40カ所の宗教施設が機能
大阪大教授 稲場圭信氏
7月30日、カムチャツカ半島付近を震源とする大規模地震が発生し、日本列島太平洋側を中心に津波警報および注意報が発令された。広範な地域で津波が観測され、岩手県久慈港では最大1・3㍍の津波が記録された。避難指示の対象となった住民は約200万人に及び、酷暑の中、多くの人々が高台や避難所への避難を余儀なくされた。
津波警報が発令された地域では、小学校や公民館などの公的施設に加え、寺社等宗教施設が地域住民を受け入れた。北海道の様似町においては、町内の7カ所の宗教施設が避難場所となり、住吉神社や法敬寺など5カ所は夜間も継続して避難所として開設された。
東日本大震災の被災経験を有する地域では、宗教施設への避難が顕著であった。大槌町の指定避難所である吉祥寺には約20人、宮古市の常安寺には約50人が避難した。同日は気温が非常に高く、寺では扇風機を用意し、避難者の体調への配慮がなされた(テレビ朝日、7月30日)。
釜石市では最大1531人が市の指定避難所や津波緊急避難場所等へ避難した。市内の高台に位置し、津波避難場所となっている八雲神社の境内には釜石中学校の生徒約100人が避難した(岩手NEWS、30日)。また、仙寿院には200人以上が避難し、住職・芝崎恵応氏は「震災時には1000人以上が避難してきたことを思えば今回は少ないが、停電など不測の事態に備えて昼食の準備に着手した」と語った(毎日新聞、7月30日)。
田辺市の指定緊急避難場所である高山寺には19人、天理教中紀大教会には30人が避難した。那智勝浦町の海蔵寺には16人、紀宝町の見松寺には30人が避難した。指定避難所や指定緊急避難場所ではない宗教施設が自主的に避難者を受け入れる事例も見られた。
青森県むつ市の指定避難所である大安寺には108人が避難した。同寺はむつ市と災害時協力協定を締結しており、避難者数の報告などに関して情報共有が可能であった。防災訓練やセミナー等も継続的に実施されており、その成果として、今回の避難では車椅子利用者も受け入れられ、物資、段ボールベッド、トイレカーなども迅速に手配された。
筆者ら大阪大および一般社団法人地域情報共創センターが運営する避難所情報システム「災救マップ」の記録と各種報道の情報をあわせると、今回の津波避難において少なくとも約40カ所の宗教施設で、少なくとも700人程度が避難していたと推計される。今回のカムチャツカ半島沖地震による津波避難において、寺社等宗教施設は安全確保に重要な役割を果たした。
他方、猛暑下での避難が浮き彫りにした課題も多い。熱中症の危険性が報告され、避難所の冷房設備が未整備な地域では、車内での待機を選択する住民も現れた。体育館等では冷房が整備されていないケースが多く、避難所の環境改善の必要性が明確となった。
今後さらに求められるのは、平時からの物資備蓄や避難所運営体制の構築、そして行政・住民との連携深化である。宗教施設としても地域社会との日常的な協働に取り組むことが、災害時の避難者の安全と安心につながろう。