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自死遺族の苦悩⑤ 僧侶の読経、合掌で心に安らぎ

母親は仏壇の息子に毎日話し掛ける 母親は仏壇の息子に毎日話し掛ける

自死遺族の集まりで、主催する僧侶や宗教者の役割は重い。関西での自死者追悼法要で、導師の「仏様の前では全てのいのちが平等です」という表白に、それまで硬く押し黙っていた遺族らからおえつの声が漏れた。自死者数の何倍もの遺族には後追い自死の恐れも指摘され、各地で様々な集いやケアの催しが開かれる。だが前川裕美子さんは8年前に娘が自死した後に夫婦で行政の遺族相談窓口に行った際、逆にしんどくなったという。「心理カウンセラーに『はい、どうぞお話しください』と軽い調子で言われて……」

裕美子さんは、インターネットで調べた僧侶主催の遺族会に赴く。「自死の勉強をされたお坊さんは必要以上にしゃべらないけど、よく話を聞いてくれました」。ずっと泣いている僧侶、小声で念仏を唱える僧侶もいた。「私や娘のために心から唱えてくださるという安心感がありました」。自死の後、娘があの世で苦しんでいるのではと恐ろしくなり、悩みに気付いてやれなかった母を恨んでいるのではと娘が怖くもなったが、「私と亡くなったあの子をお坊さんがつないでくれているという感覚にほっとしました」。

娘のことを口にすると夫に「またその話か」と言われ、家族だけでは衝撃から立ち直れなかったという裕美子さんは、うつ病を患って自らも後追いを考えたが、そのような集いに救いを得た気がする。ほかの参加者から「あなたは決して悪くないよ」と支えられた。集まりでは逆に同じような境遇の人とぶつかり合うこともあるが、小グループの中に何人か僧侶がいることで、「中和されている」という。話に割って入るのではなく、進行役として寄り添う。「私が求めていた、すがれるもの。それがお坊さんにはたくさんある気がして」

裕美子さんの言うように遺族会では悩ましいこともある。亡くした肉親が親か子どもかの違いで意見が合わなかったり、“悲しみ比べ”になったりもする。三女が自死した藤山房江さんは「故人は地獄に?」などといろいろ質問する人にいら立って「残された者がどう思うかですよ」と言ってしまい、つらくなった。会で知り合って1年ほどの人が「元気になって良かったね」と声を掛けてくれたのに、心の中で「私って元気になったら駄目なの?」と食って掛かる自分がいた。

「私とは付き合いにくいでしょうね。私も気付かずに誰かを傷つけていると思う」。だが、やはり同じ立場の遺族とは安心して苦しみを話し合うことができ、その人たちが娘に一番近しい所にいるとも感じられる。

長男を亡くした森田敦子さんも、先に家族を失った人の話を聞いて、「そうなんだ。うちの子も向こうで皆と仲良くして、笑っているはず」と思えるようになった。

その場で共に悲しみ、読経や合掌をする僧侶の姿に心が安らいだ。それまで、ぶつける相手のいない苦しみにもがき続けてきたが、あの世に一番近い僧侶たちの取り組みのおかげで、少しずつ前を向いて生きていけるようになったと考えている。しばらく休んでいた集いに数年ぶりに行くと、同じ僧侶が変わらぬ様子で迎えてくれた。その僧侶は父親の老僧を病気で見送ったばかりだった。自らの気持ちも打ち明け、久しぶりの話をじっくり聞きながら念仏を唱え続ける僧侶が、敦子さんには亡き長男に静かに話し掛けてくれているように聞こえた。

(北村敏泰)

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