オウム事件から30年 研究者・宗教家に問われるもの(5月2日付)
オウム真理教による地下鉄サリン事件から30年ということで、メディアでも多くの報道がなされた。テロ事件としての側面に光が当てられたものが多い。多くの死者・負傷者を出した事件なので、そのこと自体は当然であろう。
他方で、これが紛れもなく宗教の本質に関わる出来事であるとして、まだ十分明らかにされていない部分があることを重視する議論も少数だが見られる。その一つが国際宗教研究所・宗教情報リサーチセンター(略称=RIRC)により、3月25日に都内で行われたシンポジウムである。
このシンポジウムは「オウム真理教問題の深層―地下鉄サリン事件から30年」のテーマで開かれた。限定公開の形式であり、参加したのは50人ほどであったようだが、議論の概要は「ユーチューブ」の「RIRCチャンネル」で4回にわたって紹介される。
4時間にわたる議論は第1部と第2部に分かれる。第1部は「RIRCの蓄積をどう活かすか」、また第2部は「複雑化する情報環境を踏まえ」と題される。それぞれ3人が発題した後、かなり突っ込んだ全体討議がなされている。
RIRCは地下鉄サリン事件を契機として設立されたので、関連する資料・データを大量に収集、分析してきている。それを踏まえた第1部では、今後の課題が幾つか提起された。とりわけこの事件が、宗教研究者と宗教界にとって大きな衝撃となったことを忘れてはならないと強調されていた。
RIRCによるオウム真理教事件の研究は『情報時代のオウム真理教』『〈オウム真理教〉を検証する―そのウチとソトの境界線』(いずれも春秋社刊)の2冊に集約されている。しかし、それがオウム真理教について論じる人にさえあまり参照されていない現状が指摘された。それは社会やメディア側だけでなく、研究者側の問題でもないかとする発題もあった。
他方、ユーチューブなどのオウムアニメは300万回以上視聴されるものがあり、SNS時代には面白おかしい側面だけが若い世代に広がる危惧も示された。
カルト問題とされる出来事は次々と起こる。テロ事件に至るものはそうないにしても、社会が不安を抱き、疑念を持つような宗教関連の団体の活動は多様化している。シンポジウムではカルト問題と陰謀論、フェイクニュースとの関連などにも注意が向けられた。
社会や情報ツールは激しく変化する。これに対応するには、宗教研究者も絶えざるバージョンアップが求められるとする動画の最後の指摘は、その通りであろう。