時代遅れの「正戦論」 人間的価値とAI時代の戦争(6月26日付)
アメリカのホワイトハウスや国務省の声明文などを見ていて最近気になることの一つは「西半球」という言葉だ。バイデン政権下ではあまり目立たなかった西半球への言及が、第2次トランプ政権では増えている。
日本国際問題研究所のリポート「トランプ2.0が描く西半球」(大澤傑・愛知学院大准教授)によれば、昨年12月に発表されたトランプ政権の「国家安全保障戦略(NSS)」では「長年放置されてきたモンロー主義を再確認し、西半球における自国の優位性を回復」することを謳っているという。
元祖モンロー主義と同じく、アメリカを中心とした「西半球」秩序の利益を重視し、孤立主義の一方で積極的に武力を誇示する。「アメリカ・ファースト」の延長上の帝国主義的構想だろうか。CNNはトランプ大統領が新たに中東のオマーンを武力行使の可能性で脅迫したことを挙げ、第2次トランプ政権が実際に攻撃したり攻撃の可能性をちらつかせたりした国は15カ国で、世界200カ国中の13分の1、人口にして11人に1人が米国の軍事圧力にさらされていると分析している。
「西半球」や「アメリカ大陸の盾」を強調するトランプ政権の「ドンロー主義」は、中国習近平政権の「中華民族の偉大な復興」の主張やロシアのウクライナ侵攻の背景にある「ルースキー・ミール」の思想とも似通った性格を持つようだ。それぞれが「正義」を声高に主張するのも同じだ。
バチカンの教皇レオ14世が就位後初めて発表した回勅「マニフィカ・フマニタス」については様々な反響があったが、「正戦論は時代遅れになった」という言明を重視する報道も多かった。AIの急激な台頭の中で、旧来の「正戦論」は有効性や意味を失ったとの指摘だが、それぞれの正義を掲げた戦いや聖戦が人類全体を破滅に導くという警告とも読める。
大国主義国家間の力のバランスと打算による圧力は弱者にとって脅威である。それに対抗し得るのは共通善のために協働する多国間主義だろう。宗教間対話は有力なアプローチとして期待される。
日本の宗教界は無条件降伏に至る戦争で軍国主義の「正義」に従い、結果として国民の信頼を失った。戦後八十余年、世界の情勢は時計が逆行するような動きを見せ、我が国もその中に巻き込まれかねない。困難な時代ではあるが、宗教界は聖戦論につながるような兆候には十分に警戒すべきだろう。AI時代に入って、人間にとって「平和」の意味ははるかに重くなっている。








